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外生的ショックに対する雇用調整・賃金調整の実証研究川口教授 顔写真
東京大学経済学研究科
川口 大司 教授

研究背景・ミクロデータ活用の経緯

 労働経済学・教育経済学における実証研究、特に人的資本形成過程の分析とその経済格差への影響に関する実証分析を多く行っています。その中で、日本における正規労働者・非正規労働者間の雇用調整に関する非対称性(景気や業績の悪化時、正規労働者ではなく非正規労働者の雇用を減らす傾向)の存在とその原因を明らかにするため、外生的ショックとして為替レートの変動を利用し、外生的ショックに対して各企業がどのような雇用調整・賃金調整を行うのか分析することにしました。その際、個社の雇用調整・賃金調整推移や、為替レート変動によって受ける影響の大きさ(本研究では輸出入比率を利用)を特定できる企業活動基本調査・賃金構造基本統計調査のミクロデータを利用することにしました。

研究概要

活用したデータと手法等

 まず、企業活動基本調査のミクロデータを用いて個社の正規労働者・非正規労働者別の雇用調整推移を算出し、同様に算出した個社の輸出入比率・R&D費率・利益率、産業ダミー変数、為替レート(国際決済銀行のデータ利用)等を説明変数、企業の業績・正規労働者雇用者数・非正規労働者雇用数を目的変数として、回帰分析を行いました。
 その後、産業・規模別に集計した賃金構造基本統計調査のミクロデータと統合し、為替レート変動に伴う産業・規模別の正規労働者・非正規労働者賃金調整推移を分析しました。

研究結果

 企業活動基本調査・賃金構造基本統計調査のミクロデータを用いた分析から、外生的ショックに対して、正規労働者についてはほぼ雇用調整は行われずに賞与を中心とする賃金調整により対応している一方、非正規労働者については賃金調整は行われずに雇用調整により対応していることが明らかになりました。影響を受けるグループを特定することは、政策立案においても重要な示唆を与えます。
 本研究は、輸出入比率等の企業の異質性に着目し、時間を通じた為替レートの変動が企業の業績や、正規労働者・非正規労働者別に雇用に与える影響を分析した点が特徴的と考えます。

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ミクロデータ活用の有用性など

 公的統計は回収率が高く、厳格な手続きにより情報も正確である点が強みとして挙げられます。企業活動基本調査が(多くの民間データと異なり)未上場企業も対象としており、回答義務もあることから分かるように、カバレッジの広さも長所であり、民間データでは代替しにくいと考えます。また、「薄い」関係性を捉えるためには一定以上のサンプルサイズが必要となるため、サンプル数の非常に多い公的統計はこの点でも利便性が高いと言えます。更に、長期的に同じ枠組みで調査しているため時系列での分析がしやすい点も研究者にとってメリットだと感じます。
 今後、オンサイト施設で利用可能な公的統計の幅や時系列の深さが増え、統計ミクロデータ間のマッチングもしやすくなるような仕組み(例えば分析プログラムをシェアできる仕組み等)が整備されると、より一層統計ミクロデータの利用が促進されるのではないでしょうか。
 

【利活用事例 】

Yokoyama,
Higa and Kawaguchi(2019)
『Adjustments of Regular and Non-Regular
Workers to Exogenous Shocks: Evidence
from Exchange-Rate Fluctuation 』
Industrial and Labor Relations Review

【研究キーワード 】

Exchange Rate; Permanent
Shocks, Temporary Shocks