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THE EFFECT OF PATIENT COST SHARING ONtest
UTILIZATION, HEALTH, AND RISK PROTECTION
サイモンフレーザー大学 重岡 仁 准教授

研究背景・ミクロデータ活用の経緯

  医療費の窓口負担が70歳を境に3割から1割に変化する政策の影響を分析するためにミクロデータを活用しました。窓口負担が変わる際に、病院に行く回数がどう変化し、それが患者の健康にどう影響を与えるかは、政策的に重要な問いです。 影響を測定するためには、70歳前後のデータを比較する必要があります。そこで、70歳の手前までは窓口負担が3割であることに着目し、69歳11か月と70歳のデータを比較することにしました。使用するデータには代表性を満たし、かつ月別でデータを収集できるという要件を満たす公的統計の活用を考えました。ちょうどその頃、医療系のミクロデータを活用していた研究者の知り合いがいたため、その研究者に連絡を取り、利用手続きを経たうえでミクロデータにアクセスすることができました。応用ミクロ経済学の分野では、研究者は皆、ミクロデータの存在を認識されていると思います。

研究概要

活用したデータと手法等

 データには、レセプト(診療報酬明細書)データである厚生労働省の患者調査を用いました。外来を訪れた患者数と入院者数を月齢別に把握することができます。また、厚生労働省の人口動態調査を用いて死亡率を、同じく厚生労働省の国民生活基礎調査を用いて、健康状態が良いと答えた人の割合を把握しました。
 分析手法としては、回帰不連続デザイン(Regression discontinuity design、以下RDD)を用いました。RDDとは、ある連続変数の値が特定の閾値よりも高いか低いかによって、処置あり群に割り付けられるか、処置無し群に割り付けられるかが決まっている性質を利用することで、介入効果を推定する方法であり、近年一般的に活用されるようになってきています。

研究結果

 RDDを活用して分析した結果、外来を訪れた患者数を65歳から75歳まで月齢別にプロットすると、69歳11か月から70歳になるところで急激に患者数が増えていることが見て取れました。入院も同様であり、70歳を境に入院者数が増加していました。一方で、死亡率や健康状態といった健康指標で比較すると、70歳前後で明確な改善は見られず、窓口負担による患者の健康状態への影響を示す証拠は見つかりませんでした。

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ミクロデータ活用の有用性など

 海外ではミクロデータの整備と公開が進んでおり、研究や論文執筆の際にミクロデータを活用することがより一般的になっています。また、異なるミクロデータをマッチングして分析することも行われています。一方、国内でミクロデータを活用するには、以前は、利用申請時に変数をオーダーメードで作成したうえで審査手続きを経る必要があり、その確認のやりとりに時間がかかっていました。しかし現在では、オンサイト施設で利用する場合には、変数を指定しなくて良いようになっていますし、オンサイト施設のPCを利用して生のデータに触れながら、コードを書いて分析することもできます。また、法律改正により、科研費の申請をしていなくても大学の研究者がミクロデータにアクセスできるようになっており、ミクロデータ活用のハードルは低くなってきているように感じます。今後、ミクロデータの活用において、外国語ウエブサイトの充実や海外にいる研究者への利用が進めば、より一層その有用性は高まっていくのではないでしょうか。

【利活用事例 】

Shigeoka, Hitoshi(2014)
『The effect of patient cost sharing on utilization,
health and risk protection』
American Economic Review,
104(7): 2152-2184.

【研究キーワード 】

医療費、窓口負担、患者、死亡率、健康指標、
回帰不連続デザイン