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観光学におけるミクロデータ利活用大井教授 顔写真
和歌山大学観光学部
大井 達雄 教授

観光学と公的統計ミクロデータ

 観光学は、観光に関する諸事象を研究する学際的、かつ比較的新しい学問分野です。その範囲は、社会学、文化人類学、都市計画、心理学、経済学や経営学などに及び、学会ではさまざまな研究分野から活発な議論が行われています。しかし、このような学問的背景の異なった研究者が議論するため、その内容がかみ合わないこともしばしばみられます。そのため、広範囲な研究分野を統合し、研究分野としての地位を高めるためには、データに基づいた実証分析がますます重要となります。一方で観光統計は観光庁を中心に整備が進められていますが、その蓄積は十分ではありません。このような状況の中でデータを使用した分析を行うために、「社会生活基本調査」に代表されるような公的ミクロデータの活用が期待されています。

ミクロデータ利活用事例

 本研究では、「社会生活基本調査」の旅行・行楽に関する回答結果を用いて、高齢者の旅行・行楽行動について実証分析を行っています。具体的には、1年間で旅行(宿泊を伴う観光)または行楽(日帰り観光)をしたことがあるかどうかの行動率を分析しています。65歳以上の高齢者を対象にすると、当然のことながら加齢に伴い、行動率は下落します。しかし男女別の行動率でみると、65~69歳では女性の方が高く、70~74歳ではほぼ同じ水準となり、75歳以上となると男性の方が高くなります。つまり女性のほうが落ち込みが大きくなることが報告書からわかります。そこで5歳間隔ではなく1歳ずつで行動率を集計しました。グラフから70歳までは女性のほうが行動率が高いですが、74歳を過ぎると男性の行動率のほうが高くなる傾向にあることがわかりました。今後は他の調査とのデータ連携も視野に入れつつ、家族世帯、単身世帯による差についても分析することを予定しています。

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ミクロデータを活用される方々への期待

 ミクロデータを用いた研究では、集計後のデータからは見えてこない、細やかなデータの揺らぎや小さな傾向を発見できることがメリットとして挙げられます。一方でデータ量が膨大な為、それらに埋もれてしまうことがあります。私自身、オンサイト施設でミクロデータを使った分析を進めていると、ついつい時間が経つのを忘れて研究に没頭してしまいます。回帰分析はもちろんのこと、クロス集計だけで解釈は色々とできますし、良くも悪くも非常に自由度が高いと思います。そのため、こういった統計分析にはある程度のスキルが必要となります。しかし、実証分析に慣れていない研究者の方であってもこれらのデータの山に埋もれてもらいたいと考えています。そういった経験をもとにデータ解析の経験を積んでいただき、観光学において新たな発見が生まれることを期待しています。

観光分野におけるミクロデータ利活用促進に対する期待

 観光学に限っていうと、そもそも公的統計ミクロデータを利活用できることを知らない研究者の方もいると考えています。一方、人文科学においても、最近では純粋な理論研究だけではなく、データ利活用の機運は高まってきています。その為、まずはミクロデータをオンサイト施設で利用できることを認知してもらう必要があると思います。加えて、ミクロデータを利用するためには利用申請手続きを経る必要がありますが、申請してから審査が終わるまでの期間が長いこともあります。利用申請手続きの簡素化についても併せて進めることで、より観光分野の研究として使いやすくなると期待しております。

【利活用事例 】

大井 達雄
経済統計学会第63回全国研究大会報告
(2019年9月6日)
社会生活基本調査を使用した観光行動の地域分析
-高齢者の観光行動に注目して-

【研究キーワード 】

観光学、旅行、行楽、行動率、高齢者、
シニア、男性、女性