管理番号:10050020220001

府省:農林水産省

提供状況

2022-04-20 調査票情報の提供を受けた者の氏名又は名称 田中 勝也
調査票情報の提供を受けた者(個人に限る。)の職業、所属その他の当該者に関する事項 滋賀大学経済学部 教授
提供した調査票情報に係る統計調査の名称 農林業センサス
調査票情報の利用目的 科学研究費助成事業(基盤研究(B))「農業環境政策における成果連動支払(PbR)がもたらすイノベーションの可能性」および農林水産政策研究所連携研究スキームによる研究「フィールド実験を通じた農業者等の地球温暖化適応行動・温室効果ガス削減行動を促進するための政策措置に関する研究」の一環として、滋賀県全域を対象として、農林業センサスの調査票情報等を用い、計量経済学の手法で保全型農業の採択モデルを推定することで、個別農家の経営構造等による採択行動への影響を解明するとともに、環境直接支払およびナッジの効果を検証することを目的とする。
備考

統計若しくは統計的研究の成果又はその概要等

調査票情報の提供を受けた者の氏名又は名称 田中 勝也
提供した調査票情報に係る統計調査の名称 農林業センサス
統計又は統計的研究の成果等のタイトル等 滋賀県における保全型農業の現状及び普及促進に係る研究
提出された統計若しくは統計的研究の成果又はその概要 「保全型農業における水田のメタン排出抑制の空間計量経済分析」の成果の概要
 本研究は、日本の滋賀県を対象に、水田からのメタン排出を削減する水管理手法である長期中干し(中干し期間の延長、日本版AWD(Alternate Wetting and Drying))の採用要因と、その地理的な広がりを定量的に分析したものである。メタンは温室効果ガスとして二酸化炭素よりも温暖化係数が高く、水田の嫌気的条件で大量に発生する。本研究では、水田農業が盛んな滋賀県において、長期中干し の導入を促進する要因を明らかにするため、農家個票データを空間統計手法と組み合わせて検討した。既存研究では東南アジアの事例が多く、日本のように農地規模や水利条件が異なる地域に適用できるかどうかは十分に検証されていなかった。そこで、本研究では滋賀県の耕作実態に即したマイクロデータを統合し、長期中干し採用行動がどのような要因に左右されるかを解明することを目的とした。
 まず、水田地域における空間的特性を捉えるために Moran’s I や Global G* を用い、長期中干し採用状況の分布に自己相関があるかを確認したところ、有意な正の自己相関が検出された。すなわち、長期中干しを導入している農家が地域的に集中して立地する「ホットスポット」が存在し、隣接農家の導入状況が自らの導入意志に大きく影響を与えている可能性が示唆された。この知見を踏まえ、長期中干し採用を二値従属変数とし、隣接農家の採用行動を考慮した空間プロビットモデルを推定した。その結果、周辺農家の採用行動は個々の農家の決定に統計的に有意な影響を与えており、同一地域内で情報や経験が共有されることで、長期中干しが波及しやすくなることが明らかとなった。
 さらに、長期中干し採用を促進する個別要因としては、①米が主たる収益源である農家、②大規模経営や貸借地率の高い農家、③データ取得や活用に積極的な農家などが挙げられる。特に米販売が経営の中心である農家や大規模経営ほど、長期中干し導入によるコスト増が小さい一方で、水資源節約や環境対応型補助金といった経済メリットを得やすい点が背景にあると考えられる。また、デジタル技術の活用は、天候予測や生育データの分析を通じて収量リスクを軽減できるため、長期中干しのような新技術導入への心理的障壁を下げる役割を果たしていた。一方、法人経営体は導入率が低く、市場プレミアムや現行補助金の水準では十分な採算が得られず、経営判断として二の足を踏む傾向が示唆された。
 これらの結果から、滋賀県における水田メタン排出削減策として 長期中干し を普及させるには、(1) 地域内の人脈や情報共有ネットワークを活用し、成功事例を効果的に伝達すること、(2) デジタル技術の導入を支援し、客観的データをもとに導入リスクを緩和する仕組みを整備すること、(3) 法人経営体向けには金融的・社会的インセンティブを強化し、環境配慮型米の付加価値創出や消費者への認知度向上を図ることが重要だと結論づけられる。本研究は、農家単位のミクロデータを空間計量モデルと統合し、メタン削減対策の採用行動を多角的に検証した点に学術的意義がある。結果的に、地域性や社会ネットワークの特質を加味した政策設計が不可欠であり、それを通じて農業由来の温室効果ガス削減を一層加速できる可能性が示された。
上記統計の作成又は統計的研究を行うに当たって利用した調査票情報に係る統計調査の名称、年次、当該調査票情報の地域の範囲その他の当該調査票情報を特定するために必要な事項 (調査票情報の名称)農林業センサス農林業経営体調査票
(年次)2020年
(地域)滋賀県
(属性的範囲)農業経営体
(利用する調査票情報の項目)農業に関する全項目
上記統計の作成の方法又は統計的研究の方法を確認するために特に必要と認める事項 Moran's I, Global G*, 空間プロビットモデル
学術雑誌等の名称及び掲載年月日

成果等

Farmers’ Adoption of Water Management・・ sustainability-17-03468.pdf(764.5 KB)