管理番号:20055020262006

府省:経済産業省

提供状況

2026-09-30 調査票情報の提供を受けた者の氏名又は名称 木村 真
調査票情報の提供を受けた者(個人に限る。)の職業、所属その他の当該者に関する事項 大学教授、兵庫県立大学ソーシャルデータサイエンス研究所、所長
提供した調査票情報に係る統計調査の名称 経済センサス-活動調査
工業統計調査
調査票情報の利用目的 気候変動問題への対応は世界的な政策課題であり、温室効果ガス排出量の削減を実現するため、各国・地域では排出量取引制度や炭素税など、多様な政策手段が導入されている。しかし、制度設計の違いが排出主体の行動にどのような影響を与えるのかについては、依然として十分な実証的知見が蓄積されているとは言えない。特に、排出量削減目標を設定する制度において、目標未達成時の罰則が追加的な排出削減を促進するのか、それとも目標達成に必要な最低限の対応にとどまるのかは、環境政策の有効性を評価する上で重要な研究課題である。
日本では、東京都が2010年度、埼玉県が2011年度から大規模事業所を対象とした温室効果ガス排出量削減制度を導入している。両制度は、一定規模以上の事業所に削減義務を課すという基本的な枠組みを共有している一方で、東京都では目標未達成に対する罰則が設けられているのに対し、埼玉県には同様の罰則が存在しない。この制度設計の違いは、罰則の有無が事業所の排出削減行動に与える影響を検証する上で、極めて貴重な比較対象を提供している。しかし、これまでの研究では制度導入前後を比較した分析や、排出量削減制度全体の効果を検証した研究は存在するものの、罰則という制度要素そのものの効果を識別した研究は限られている。また、事業所の立地特性や周辺地域との相互作用を考慮した分析も十分ではなく、制度効果の推定に地域特性がどの程度影響しているのかについては未解明な部分が多い。
本研究は、この課題に対して二つの点で新たな学術的貢献を目指す。第一に、地理的回帰不連続デザイン(Geographic Regression Discontinuity Design: GRD)を用いることで、東京都・埼玉県境付近に立地する事業所を比較し、地域特性の違いを可能な限り排除した上で罰則の因果効果を推定する。地理的境界を利用した自然実験は近年の実証経済学で広く用いられているが、日本の環境政策への応用事例は多くなく、本研究はその適用範囲を拡張する意義を有する。
第二に、本研究では東京都および埼玉県が公開している制度対象事業所データを工業統計調査と経済センサス-活動調査の事業所個票データとマッチングし、罰則の有無が従業員数、生産性、出荷額など企業活動に与える影響を分析する。この分析のため、オンサイト施設を利用して工業統計調査および経済センサス‐活動調査の個票データを取得・利用する。環境規制の評価を排出量削減効果に限定せず、企業の経済活動への影響まで一体的に検証することにより、環境政策の社会的厚生への効果をより包括的に評価することが可能となる。この点は、政策評価研究に対する新たな学術的貢献となる。
さらに、本研究の成果は環境政策の制度設計にも重要な示唆を与える。もし罰則が企業活動を過度に抑制させず、追加的な排出削減を促進することが確認されれば、今後の排出量削減制度の設計において、目標設定だけでなく執行や遵守メカニズムの重要性を示す科学的根拠となる。一方、罰則の効果が限定的である場合には、補助制度や情報提供など他の政策手段との組み合わせが必要であることを示唆できる。このように、本研究は環境政策の制度評価に関する実証的エビデンスを提供するとともに、地理的自然実験と空間分析を融合した新たな分析手法を提示することで、政策評価研究の発展に貢献することを目指す。
備考